野田コンテンポラリーで伊藤華純さんの個展が開かれると聞いて、うれしくもあるがちょっと驚いてもいる。
昨年5月、東京の「ギャラリイK」で開かれたのが彼女の初個展だった。しかし、その展示の、なんと印象的だったことか。即座にイタリアの現代美術誌『フラッシュアート・インターナショナル』に展評を書くことを思いつき、その場で展示風景の写真を撮った。その写真を担当編集者に送ると「(作家は)22歳? 若い!」と感想付きで執筆依頼が返ってきた。展評は同誌の07年7―9月号に載っている。
写真で見ただけでも、若い作家の初個展とは思えないほど整然、堂々としていて、しかも作品の形態の特異さで強く目を引く展示だったのだ。鹿をモデルにしたという動物の、それも頭部を欠いた奇妙な動物の同一の型から取った白いFRP模型が6体、互いの尻を追う形で画廊の床に6角形を描く。それぞれの背中にはウサギ、牛、ガゼルの毛皮が張り付けられている。題して「Wild Circle」。動物から頭を除いたのは「個々の動物としてよりも一つの全体として見えるようにするため」と伊藤さん。個性と全体性、自然と人工、人間と産業。さらにはクローン技術、再生医学、生命科学……。彼女自身こんなことまで考えもしなかったろうが、見る人によっては実に深い象徴性をもった作品だった。しかも、その「象徴」は幾何学的ともいえる完璧な造形美を備えているのだ。
一体、どうして初個展でこれだけ完成度の高い仕事ができたのか。これが最初で最後の成功となりはしないか。作品ファイルを見せてもらったが、過去の作品中に、めぼしいものはあまりなかった。ただ、「動物」や「自然」に関心があるらしいことは伝わってきた。
そして、縁あって実現したのが本展である。奇跡のような初個展から1年も経たないうちに、別の大都市で個展の機会を得た。伊藤さんとは何と恵まれた作家なのかと、驚きを禁じえないのである。
わが国では、貸画廊での初個展から、個展を企画してくれる画廊との巡り合いまで、若い作家は苦難の道を歩む。しかし、作品が優れているならば、あとはそれを理解する人との「出会い」の問題だ。「出会い」の場所とはどこか。オークション会場でも、オープニングパーティーに外国人の姿がやたら目立つ画廊でもない。そんな所に無名作家が入り込む余地はない。案外、伊藤さんの場合のように「貸画廊」だったりするのだ。
今年1月末から2月にかけて初個展と同じ画廊で再び個展をした伊藤さんは、古着の切れ端をまとったタヌキの模型群を展示。名古屋では一体何が画廊に登場することか――。
伊藤さんの個展は、作品を鑑賞する場であるとともに、日本で若い作家が世に認められていく見事な例を目撃する場でもある。作品とともに「希望」を味わいたい。