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原游個展 「Priming Water」  4/15-6/21/2009
 
原游個展 「Priming Water」
4/15-6/21/2009
Opening tea party
4/15-19 14:30-16:30
NODA CONTEMPORARY
 

 

 
 
 

俯瞰してみると世界は様々な意味を持つレイヤーが重なったり離れたりを繰り返す状態にある。海面で暖められた水蒸気が上昇し雲になったり、様々なものが重なり合って地層がつくられる。近づいてみると「私」もまた、過去に見たり聞いたりしたことと、現在「私」を取りまく風景が重なり合い、何かを思い、忘れる。私たちはたえず何かを見て何かを思い、聞いて何かを思い出しという繰り返しによって「私」というものがあるように感じている。
絵のなかには数々のイメージが散らばっていて、一瞬、子供の形を描くが、散逸する。そしてその形作られた子供を、より俯瞰して見てみると、それは小さな固定したかの様に見える子供のイメージとなり、もっと大きな別の形のものの1パーツになっているかもしれない。世界のなかに「私」がいると同時に、「私」のなかに世界がいると感じられる。
過去に見たり聞いたりしたものと、現在「私」を取り巻く風景が何重にも映しだされ、また消え、映し出されと繰り返される心象が「私」であるならば、「私」の中にはいろいろなものを映しだす泉があると考えてみる。その泉は過去も現在も映しだすことができる。泉の水面に映し出されるものは、色や形を少しずつ変えながらいろいろな場所にいくつも姿を現す。「私」の中に泉があるのであれば、外のものの中にも泉はある。
「私」と何かが向き合った時に、つまり泉と泉が向き合う。泉と泉が互いに映しあうことになり、ゆらぎをともないながら無限に反射を続けることになる。そのような状態が私にとっての常であるとするならば、そのなかで何かを求めようとすることは、屈折し、反射を繰り返す像の後をついて一緒に螺旋を描きながらくるくると回り続けるようなものである。

 
原游
 

 

 

     
魚を呑む
     
    魚を呑む      
    1450×1120mm(80F)      
    油彩      
    2009      

 

 

where water comes together with other water
   
rain
   
catch the tail
where water comes together with other water   rain   catch the tail  
1300×1300mm(60S)   1800×1800mm   2000×2000mm  
油彩   油彩   油彩  
2009   2009   2009  

 

 

into the girl
   
yellow fruits
   
into the bear
into the girl   yellow fruits   into the bear  
1170×1170mm(50S)   1450×1120mm(80F)   1800×1800mm  
油彩   油彩   油彩  
2009   2009   2009  

  

 

   
Flying classroom reflection propeller supermushroom
   
Flying classroom making the clouds
 

Flying classroom

(reflection propeller supermushroom)

 

Flying classroom making the clouds

 
  900×900mm(30S)   1500×1500mm(80S)  
  油彩   油彩  
  2008   2008  

  

 

 

 
原游 1999-2009年現在
 

 

アーティスト・イン・コンビニ
 原游の絵を初めて見たのは、どこかの樹陰の一隅を描いた何枚かのシリーズで、赤い花が3つ4つ咲いている構図は同じだけれど、描線や色合いが少しずつ違っている。ズレた印象でもある。このもとになった図はコミックの1コマからとったもので、これをコンビニや書店のコピー機で数十回もコピーしたという。ならばコピーのコピーを繰り返し、もとの絵柄との距離が広がったときが彼女には身近になり、そこではじめてキャンバスに油絵具で拡大模写して自分の絵を描き出したことになる。現実の花木を観察しながら描く手続きとは逆である。
  これらの連作が「am pmシリーズ」「ABCシリーズ」と名づけられているので、コンビニや書店(青山ブックセンター)での行為が誰にとっても日常的なものであることに気がつくのだが、そうした行為から1枚の絵を描くまでの没頭が作品そのものに不思議な物語のように付きまとっている。
  同じ時期の作品として、やはり絵本や雑誌から集めた図をもとにつくった36匹もの木彫りの亀がある。絵本や雑誌のなかでそれぞれの物語とともにいた亀たちは木彫という、これもいわばコピー化によって一堂に会し、同じ方向に進み始める。ここにも図像の変換があり、それぞれの亀が背負ってきた物語の距離の交錯があり、その実現のために彼女が没頭した木彫りの作業のさまがありありと想像できる。
  こうした作品群が並べられた、「うらしま 原游展」の会場は、シリーズとしての連続と変換の構造に支えられているからコンセプチュアルであり、その謎解きが楽しいのだが、個々の作品はあくまで手で描かれ、手で彫られ、手で綴られている。愛らしい。原游の仕事の魅力はまずそこにある。
  「科学の友 かわり玉」という色鉛筆による小さな8枚セットの作品にも驚かされた。こちらは絵本の原画といってもいいくらいで、学校帰りの中学生が駄菓子屋でかわり玉を買ってしゃぶりながら歩いていくと景色が青やピンクに変わっていく。それだけの変容譚なのだ。素朴な筋書きを作者がまるでおそれていない大胆さに意表をつかれる。そして絵の、とくに人物描写の楽しさで夢中にさせられる。それを説明しようがないことにむしろ戸惑わされる。こんなふうに「美術作品」を見ることはこれまでになかった。
  描く対象とそれを描くこととの間に距離が厳密に張りめぐらされて、油絵、デッサン、オブジェの配置が秩序づけられ、その構造が展覧会場の空間を丸ごと支配する傾向は、その後の彼女の個展にますます顕著になっていく。たとえばアユミギャラリーにおける「天気と天機と転記」では、霧や雨、湖面や地層を暗示する同じ絵柄の変換が画布を変え、サイズを変え、鉛筆・油彩・水彩・刺繍と画材を変え、さらにはタイトルの言葉も同音異義に次々と変換されて、それこそ天気の移り変わりに従うように作品を見て歩く方向を誘い出し、ついには何も飾っていない壁や洗面台や床の段差まで天気の一現象のように思わせる。
  コピーするという基本行為は、いつのまに動きそのもの、速度そのものに移行して、見る者に作用しはじめる。
  またラ・ガルリ・デ・ナカムラの「never lasting」展では、すべてがほとんど即興で制作され広い会場にとりあえず置かれたような気楽さで、画廊はまるでブティックの店内だ。「かわり玉」の中学生が、言ってみれば伝説上の少年少女たちに成長して登場する。枠に張られたキャンバスがそのまま顔の輪郭となり、細く裂かれたキャンバスの前垂髪を縫いつけたりした「パッチワークさん」、「ミイラ男」、「カミナリにえらばれた少女」などの、絵から半ばはみ出した肖像シリーズである。「天水ユウジ」、「榊響子」などの名前のつけられた少年や少女の服(キャンバスを上衣やパンツの形に切って油彩で描いている)まで並べられている。彼等はコミックやアニメのキャラに似ているようでいて、まったく違う。展示空間と分かち難く連続し、空間そのものとなっているために、むしろ王侯の間に飾られた肖像画のような気分すら醸し出している。あえて言うならばヴェラスケスの手がけた肖像画に似ている。それをいわばコンビニや書店で繰り返しコピーして飾り付けた空間が、現代のもっとも世俗的な場所に変換されている。

物語の影物語
 「変換」によるもうひとつのめざましい仕事は、原倫太郎との協同による展示で初めて見ることになる。言葉の変換とそれにあわせた挿図を絵本にしたものである。日本の昔話を「日本語−英語の翻訳ソフト(本来文章がもっている歴史的背景や、場所性、感情、行間の中にある意味などを排除し、分解し、更にノイズ(誤訳)を加え元の文章とは異なった意味に変換する)を使用し、それらの言葉のギャップを逆手に取って」つくった、とYANAKA foundation galleryでの「Translation≒変換」展における原倫太郎の解説にあるが、この2人展のときは、「言葉のギャップ」もそれに添えられた原游の絵も、まだ原典を彷彿させる範囲で調整されていた。しかしその後の単行本、「匂いをかがれるかぐや姫」「背面ストライプの浦島太郎」では文も絵もヴァージョンアップして、ノイズが猛威を振るっている。内容に無情なキカイの変換は今やコンビニと同じように身近になってしまっており、現代とは誰もがそのズレを平然と生活している時代である。原游はそのズレの部分だけを溌剌とした線と色彩で描き出している。つまりこの絵本では、それぞれの昔話は、原典としての物語とそれに沿った場面の絵(日本人なら誰でも子どものときから馴染んできた絵)、次いで変換された物語とその場面の絵という、2枚1組の構成を繰り返して進行する。だから変換された言葉と絵は原典からのズレ、あるいは影ともいえるのだが、逆にここでは原典に相当する絵はモノクローム、「影」の絵は鮮烈で透明感に貫かれたカラーによっている。それはファンタジーなどの内容性に煩わされない純粋な、しかしナンセンシカルなゲーム性とも縁のない切実さが迫る図像である。途轍もなく自由に描かれているようにみえながら、あくまで変換された物語を細部まで忠実にたどった挿図なのだ。
  素材にされた日本昔話は、一寸法師、かぐや姫、桃太郎など異界からの旅人の物語、また浦島太郎のように異界に旅して帰還しても自分の場所を喪失した男の物語、あるいは鶴の恩返しのよひょうや花咲じいさんのように異界の恩寵に接した生活者の物語である。それを、ただ変換するという手続きに限ったために、昔話に隠されていた影の領域・異界が思いもかけない姿で躍り出た。コピー機やパソコンやケータイが日常のものになっている人たちはじつはその存在を意識しないままに知っていた。だからほかに例のないこの新しい絵本を誰もが楽しむことができるのだ。それはコンビニと異界とを不意に結びつけてしまうダイナミズムでもある。

往還のよろこび
 2005年から見ることになる「飛ぶ教室」シリーズでは、こんどは原游自身が不思議な国のアリスのように物語のヒロインとして飛び込んだ、身近にある品々や記号が炸裂する、日常が異界として刻々と変化し膨張していく宇宙になる。たとえば5、60脚の椅子が竜巻で空高く吹き上げられているような作品では、すべての椅子が完全な姿のまま描かれているのにもかかわらず、その螺旋状の動きのなかでひとつひとつが破片のようにも見える。このシリーズ全体にこうした変形の魔法がかけられ、日々暮らしている環境が空に星雲状に散りばめられていくかのような色鮮やかな目眩をひきおこす。
  彼女はこのシリーズの制作に際して前以て構図を考えたりせず、いきなり即興的に描いていくという。白く仕上げられたキャンバスに見え隠れするのは、たとえばコーヒーカップ、ギター、ほうき、電気スタンド、あるいは昆虫、カエル、イヌ、ぬいぐるみ、さらには店の看板、商品のロゴなど、馴染みのある図像や記号ばかりである。それらすべてが、無重力のなかでのように軽やかに即興の空にあることで、個々は完全体でありつつ断片化し、音楽の視覚化さえ感じさせながら、飛翔の群れは仲間を呼んで、とめどなく大きくなっていく。
  そのありさまは「絵画を観賞する」ことから脱して、誰の目にも直接に届く。平明さは彼女の独創である。「飛ぶ教室」のひとつがある小学校の壁画として使われたというが、子どもたちはここから絵そのものを、同時に終わりのない物語を読むだろう。その宇宙の膨張は先が予測できないが、最新作のひとつである「swallow fish」と名づけられた絵には、星雲の彼方に愛らしいがどこか不気味でもある姿が現れている。不気味さとは彼女の作品がつねに磁力のように帯びている物語の底知れぬ深さのことに他ならない。その物語に日常の品々や文字がまたも反抗して別の物語を語ろうとする。全体と細部の往還、コピーすることと手で描くことの反復は、原游のこれまでの仕事に一貫して止むことがない。そのなかで私たちの身のまわりにあるすべてが、思いがけなくもといってもいいほどに、よろこびの表れとして見えてくる。


 
植田実
住まいの図書館出版局 編集長
東京芸術大学美術学部建築科 講師
 

 

 


 

原游

略歴
1999年 東京造形大学造形学部美術学科美術一類卒業
2001年 東京芸術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了
2002年 同大学院坂口寛敏研究室研究生修了


個展
2009年 「Priming Water」NODA CONTEMPORARY BEIJING、北京
2008年

「匂いをかがれるかぐや姫」原画展 高島屋美術画廊、東京

2007年

「playroom」 LA GALERIE DES NAKAMURA、東京

  「&」 NODA CONTEMPORARY、名古屋
2005年 「never lasting」 LA GALERIE DES NAKAMURA、東京
2003年 「天気と天機と転記」 AYUMI GALLERY、東京 
  「原游展」 ギャラリー21+葉、東京
  「森」 折本邸ギャラリー、愛媛

グループ展
2008年 「These Artists Are Good!」 NODA CONTEMPORARY BEIJING、北京
2006年 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ、新潟
  「サクラスイッチ」 ART GAIA河口湖ミュージアム、山梨
  岡村多佳夫企画10周年記念展 AYUMIGALLERY、東京
2005年 全国絵画公募展第23回IZUBI、静岡
2004年

JRタワーアート計画2004「ちいさな私のおにわ展」(原游+加藤千佳)JRタワー、北海道

  「Under Trial」 海岸通ギャラリーCASO、大阪
2003年 『宮脇愛子「うつろひ」をめぐる若手アーティストたち』 カスヤの森現代美術館、神奈川
2002年 「変換≒TRANSLATION」(原倫太郎+原游)上野-谷中Art Link、東京
   
恒久設置
2005年 北海道北広島小学校に「飛ぶ教室」を恒久設置

その他
2006年 「匂いをかがれるかぐや姫〜日本昔話Remix〜」をマガジンハウスから出版、イラスト担当

 

受賞
2008年 「匂いをかがれるかぐや姫」が文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門・奨励賞
2005年 全国絵画公募展第23回IZUBI 入選、静岡
2004年 JRタワーアート計画2004「ちいさな私のおにわ展」入選(原游+加藤千佳)JRタワー、北海道
   

 

 
Hong2Yuan, Caochangdi Village, Cui Ge Zhuang, Chaoyang District, Beijing, CHINA
Gallery hours 10:30-18:30 closed on Mondays
tel+86-10-5127-3187 fax+86-10-5127-3157
北京野田当代画廊

 

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